Emu sickSというバンド

Emu sickS
(https://www.emusicks.com/)

【L→R】
16ビートはやお(Dr) 
大善(Ba) 
中嶋(Vo&Gt) 
山口(Gt)

昨年10月にはとうとうバンド初の全国流通盤『夜明け前のジーニアス』をリリース、そのリリースツアーで全国を周り、3月にはツアーファイナルを開催してライブハウス心斎橋Pangeaをソールドアウト、6月には初のワンマンライブ開催を発表。それまでも、彼らが日本各地でともにライブをしてきた実力あるバンドの楽曲を集めた無料(!)コンピレーションアルバム「16ビートアザラシコンピ」を3年連続配布、コンピ参加バンドを中心にした出演者で、大阪にて3会場を使用したサーキットライブイベントを主催、東京や名古屋でも頻繁にライブを行い、福岡や広島等でもライブをできる地盤を築いていっている。このように、常に精力的な活動を続け、昨年は関西の音楽番組『音エモン』のマンスリープッシュに選ばれた彼らEmu sickS。もはや俺が彼らについて、何をあらためて紹介する必要があるのだろうか。

↑結成初期と思われるEmu sickS(写真:16ビートはやお提供)

俺が、Emu sickSとはじめて対バンしたのは7年前の神戸Star Clubだ。その時は、キュウソネコカミ、愛はズボーンの前身バンドとも言える江坂キューティーリップス、前回のパンケーキ食べ放題にも出てくれたSAPPYのギター樽本くんが以前やっていたバンドなど、今から考えると凄まじい出演者が揃っていた。この日は、俺もまだライブハウスに慣れていない時期で、正直彼らのライブの印象は申し訳ないけどあまり残ってない。でも、この日は結構異端児みたいなバンド多かったので、ストレートに格好いい子たちだな、と思った記憶だけある。ただ、楽屋とかでは全く会話はなかった。もちろん16ビートはやおは、まだ16ビートはやおではなかった。その頃は、まだ彼は大人しそうな普通の若者だった。

次に対バンしたのは今は亡き難波ROCKETSのはずである。この時は、「そういえば前も一回対バンしたよな」と思いつつ見たので、割と記憶に残っている。この時は、インパクトあるイントロから始まる、彼らの中でも一際クールな曲”Disappear”を押していたはずであり、この曲が入ったCDを買った。その時の彼らの印象は、「ツインギターが特徴的でクールで格好いいロックバンド」だった。この時も16ビートはやおは16ビートはやおではなかったと思う。

↑16ビートはやお近影(写真:16ビートはやお提供)

だが、Funny Funk FishがFANJによく出演するようになる頃、16ビートはやおは、とうとう『16ビートはやお』という存在になっていた。彼は、人間をやめアザラシになってインターネット上での知名度を高めていた。俺も、別にそれまでと同じペースでスイーツを食べていただけなのに気がつくとパンケーキになっていたので、再会した時には「ああ、最近アザラシになってるね…」「あ、パンケーキの人ですよね…」という会話がなされた。その頃から、彼らと対バンする機会も増えた。彼らは、印象的なギターから始まる、彼らの中でも特に踊れるリズムアレンジと、一気に引き込む力を持ったサビを兼ね備えた曲”Black Out”を演奏していた。俺は、今でも彼らのキラーチューンの1つであるこの曲がめちゃくちゃ好きで、FFFの企画にも誘わせてもらったりもした。その後、彼らはおそらく活動の転機の1つになったであろう”Screw Driver”という楽曲を生み出し、一気に関西での地位を確立する。そして、様々な困難を耐え抜き活動を続け、上述したコンピ配布や各イベントの主催、全国へのライブツアーを行い、浪速のBloc Partyという枠を超え、全国に活躍の場を広げていくのである。

最初に、彼らの音楽を聴いた時は上にも書いた通り、ツインギターのフレーズが印象に残った。リードギターまさきの心地よいディレイがかかった伸びやかなリードフレーズ、リフフレーズはもちろんのこと、ギターボーカルのなかじんも、歌いながら弾くのは非常に難しそうなリズムのバッキングフレーズを難なく弾きこなす。その2本のギターの絡み合うフレーズが複雑ながらも、耳に残り続けるキャッチーさも持っている。こういった、「ボーカルメロディに負けないぐらい特徴的なギターフレーズ」という武器を持っている点が、まず第一に他のツインギターロックバンドとの大きな違いだ。

そして、ネット上でのアザラシとかいうキャラ立ちで知名度を上げるペースを遥かに上回る勢いで、迫力と狂気さを増していく16ビートはやおのドラミングと、そこに確実な安定性をもたらす大善のベースラインというリズム隊ももちろん強力なウリである。16ビートはやおのドラミングやフレーズは見れば見るほど日本人っぽくないと感じる。あの爆発力は、細かいことなど全て吹き飛ばしてしまうような、恐ろしい勢いを出す外タレのドラマーの雰囲気を感じさせる。そして、その暴走しかねないドラミングに、要所で確実に楔を打つようにアクセントを加えていく大善のベースフレーズ、この「静」と「動」的な、両極端に完全に振り切った対比が、踊れるリズムを見事に生み出している。

そして、俺が彼らをきちんと見始めた初期の時は、楽器のフレーズは格好いいと感じたが、正直に言うと「ボーカルがちょっと弱いかな」という印象を受けた。アレンジのクールさと対比すると、メロディやボーカル力が不安定で若干埋もれている、と思ったのである。だが、ライブのMCや、普段会話すると本当に生真面目という印象を受けるボーカルなかじんは、バンドを代表するフロントマンというモノに向き合い、ひたむきに努力を続けているように見えた(ボイトレにもずっと行ってるって聞いた)。その結果、彼らはとても壮大ながらも、そのアレンジに負けないボーカルで、一気に彼らの世界に引き込むことができる楽曲”ファイアーバード”を生み出すことができ、楽器の格好よさだけではない、歌の力があるバンドとなったように思う。現在のEmu sickSは、”トランジスタ”のように勢いのある楽曲でも、メロディラインが楽器陣に負けず、核となっている。そして、”エーテル”のように、勢いで押すのではない、「良いメロディ」を中心に据えた曲を見事代表曲にできる確かな実力を持つようになった。

なかじんだけではない、彼らは全員ひたすらマジメだ。はじめて会った時は学生だった彼らも、年齢を重ね、社会で荒波に揉まれながらも、ただひたすら音楽を愛し、「実力を持ったバンドこそ正義」というポリシーを持ち、ライブを続けている。だからこそ、サウンドの説得力が見るたびに増していく。彼らもとうとう今年で結成10周年とのことだが、ますます勢いと実力を増していくこと間違いない。長い長い夜を越え、自らの力で夜明けを引き寄せたバンド、それがEmu sickSなのだ。

soe

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